会長 横倉 義武
日本の今日の医療水準は非常に高く、特に人口当たりの病床数においては世界トップであります。しかしながら、昨年1月からの新型コロナウイルスは、想像を超えた感染者を発生させ、医療体制も医療関係者等の懸命の努力にも係わらず崩壊寸前の状態でした。
現在、ワクチンの接種が開始され、治療法も研究されておりますが、より感染力のある変異株が国内でも確認されており、今後も国民一人一人がしっかりとした感染対策を求められております。
今回のコロナ禍で、感染症がいかに恐ろしい病気であり、その予防が困難であるか再認識されることとなりました。古くからある結核や梅毒など多くの感染症もワクチンや新たな治療法等の研究開発がなされましたが、そのほとんどが根絶されることなく現在も一定数の罹患者が発生しています。更に、1900年代後半以降でもHIV(ヒト免疫不全ウイルス)やエボラ出血熱、SARS(重症急性呼吸器症候群)など新たな感染症が発生しています。
感染症は基礎疾患があると免疫力が低下する傾向があることから、罹患しやすいことは明らかです。普段からの生活習慣病対策を行うため、定期的な健康診断は非常に重要なことであります。新型コロナ感染症でも重症化するのは、高齢者や基礎疾患のある方に多い事がわかり、70歳代は30歳代の47倍以上と言われています。今後の日本を考えた場合、少子化が大きな課題です。日本の人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少傾向に入っており、特に、新生児については、2019年には86.5万人まで減少しています。
日本では子宮頸がんに毎年約1.1万人が罹患し、約2,800人が死亡しております。罹患者は20歳代から増え始め、30歳代までにがんの治療で子宮を失ってしまう人も、毎年、1,200人ほどいます。子宮頸がんの原因と考えられているのがHPV(ヒトパピローマウイルス)感染で、成人女性の90%以上が罹患していると言われていますが、罹患してもほとんどの場合自覚症状がありません。ワクチン接種が進んでいない我が国では「子宮がん検診」を受診しないと発見は大変困難です。現在の子宮頸がん検診率(過去2年間の検診の有無)は40%前半です。厚生労働省は子宮頸がん検診を2年に1回受診するよう奨励していますが、HPVの特定のタイプは進行が速いと言われており、検診の頻度を考える必要があると思います。
感染症は、まず健康管理をしっかり行い、手洗いなどを励行し予防対策を行い罹患しないこと。次には定期的な検査を受け、家族やパートナーなどに感染させないことが重要となります。
理事長 香山 充弘
当機構は、国民の健康維持・増進及び公衆衛生の向上を図ることを目的に、生活習慣病などを早期に発見するための健康診断に用いる簡易検査等の普及、近年増え始めている子宮頸がんについて、ワクチンの正しい情報や子宮頸がん検査の励行のための啓発、家庭生活を脅かすHIV(ヒト免疫不全ウイルス)や梅毒等の感染症についての知識の普及・啓発等を行うこととしております。
我が国では、国民の2,700万から3,000万人の人が健康診断を受けていない状況にあります。健康診断は疾病を見つけるだけではなく、糖尿病などの生活習慣病を未病段階で発見、生活改善等により発病を防ぐことにも繋がるものです。当機構はこうした簡易検査の普及や簡易検査とオンライン診療を組み合わせた健康診断の普及を図ることにより受診率の向上を目指します。
子宮頸がんについては、HPV(ヒトパピローマウイルス)が原因で発症することがほとんどですが、HPVには予防するためのワクチンがあります。2013年に予防接種法に基づき定期接種が行われましたが、接種後に広範な症状が報告されたため、積極的勧奨の一時差し止めとなりました。このため、2002年以降に生まれた女子での接種率は1%未満となっています。当機構では、HPVワクチンの正しい情報の発信や検査の啓発を行い、子宮頸がんの「早期発見、早期治療」に取り組みます。
梅毒や淋病などの性感染症は古くからある疾病です。梅毒は1940年代にペニシリンにより急激に減少しましたが、2011年以降再び増加傾向にあります。HIVについては1981年にアメリカで初めてのエイズ患者が発見され、日本では1985年に感染者が確認された比較的新しい性病です。2008年以降は、HIV感染症とエイズ患者の報告数は年間1,500件程度となっております。この他にも性器クラミジア感染症、性器ヘルペス感染症、尖圭コンジローマ等の性感染症がありますが、定点把握疾患となっているものでは、淋病以外は直近10年では増加傾向にあります。把握されている件数は、自覚症状があって検査が行われたものがほとんどですので、潜在的にはさらに多くの罹患者がいると思われます。これらの感染症は、一旦感染すると二次感染、三次感染と拡大してゆく可能性があるため、早期発見が肝要です。従ってその啓発や不特定の人と接触する機会の多い職種の方に定期的な検診を促す仕組み等を検討してまいります。
当機構では、当面以上の3項目について重点的に事業展開をしてまいります。
ご理解・ご支援のほどお願い申し上げる次第です。